教訓18
田舎自治体から出向してきた方の中には、人生初めて電車通勤をする方もいるでしょう。
私もその一人です。
新型コロナウイルス感染症の流行により、都内大手企業ではテレワーク導入が進み、コロナ前と比べれば通勤ラッシュは随分マシになったという説もありますが、田舎者にとっては十分混んでいます。
慣れない人間にとって、電車通勤は結構疲れます。
人混みというだけでも疲れるのに、長時間立ちっぱなしだったり、揺れに負けないよう踏ん張ったり……等々、案外体力を使うものです。
特に朝は、これから始まる長時間労働に向けて、体力の浪費は抑えたいところです。
通勤中の体力消耗を抑えるためには、まずは荷物を軽くすることを勧めます。
鞄そのものを軽いものに取り替えて、荷物の中身も削減します。
東京は何でも出先で購入できます。商店に乏しい田舎ではありません。
何でもかんでも自宅から持ち込まなくても、大抵のものは出先で購入できます。
出費は増えるかもしれませんが、重い荷物を毎日抱えて健康リスクを増大するよりはマシだと思います。
教訓17
「体調が悪くて休みたいけど、休ませてもらえない」という本省の過酷な労働環境の中で、プロパー職員の方々は戦っています。
むしろこの環境に耐えられた人だけが選抜されて本省に残っているともいえます。
プロパー職員の方々は、よく「睡眠よりも食事」と語っています。
睡眠は自動で取れる(寝落ち)けど、食事は意図的に行動を起こさなければ取れないから、という理由とのこと。
これを昨年4月に初めて聞いたときは「正気か?」と思いましたが、今となってはすっかり腹落ちしています。
忙しさにかまけて食事をおろそかにしていると、食事するのがどんどんだるくなります。
まさに「エネルギー補給するためのエネルギーがない」状態です。
このような「最低限のエネルギーすらない状態」に陥ることは、極力避けなければいけません。
本省出向期間中は、残業が増える分、起床時間も長くなります。
その分だけカロリーを多く消費しているわけで、自治体勤務の頃よりも多めに摂取しなければいけません。
栄養バランスのことは一旦棚上げして、とにかく生存するためのカロリーを摂取すること。
太るかもしれませんが、正直どうしようもありません。生きるためにはこうするしかないのです。
教訓16
出向期間中、最も注意を払うべきは、自分自身の健康です。
出向生活中は、非常に健康リスクが高いです。
労働時間が長くなるのみならず、生活環境がそもそも激変するため、これまでの「普段通り」とは全然異なる生活を強いられます。
そのため、若い方であっても、とにかく健康には注意したほうが無難です。
むしろ若い方ほど、体力に自信があって体をケアしないために、突然倒れる危険性が高いともいえます。
細かい論点はこれから数回に分けて書いていきますが、何より重要なのは「休めるときに休んでおく」ことです。
本省は常に、職員個人よりも組織全体が優先される職場です。
体調が悪い職員に対しても平然と出勤を命じます。
今年度でいえば、ワクチンの副反応でグロッキーなのに無理して出勤している職員を大勢見てきました。
冷静に考えて酷い仕打ちなのですが、本省では反対に「体調を崩すほうが悪い」と捉えられています。
まさに「体調管理も仕事のうち」であり、「体調管理も給与の一部」です。
つまるところ、「体調が悪くて休みたいけど、休ませてもらえない」のが当たり前の職場なので、そもそも体調が悪くならないよう細心の注意を払わなければいけないのです。
教訓15
業務面に関していろいろと教訓を書き連ねてきましたが、あえて一言にまとめるならば、
「自分は脇役だ」という意識で行動せよ
に尽きると思います。
本省においては、自治体からの出向者は脇役です。
原則1年(長くて2年)契約の有期雇用で、能力にバラツキあり、残業させてもいいけど難しい仕事は振れない……等々の性質からして、誰も出向者に「メインプレイヤー」としての働きを期待していません。
本省組織を動かすのはあくまでもプロパー職員であり、出向者はその補助役です。
指示された担当業務を完璧にこなすのが、出向者の役割です。
ただし、出向してくる職員の中には、自治体でバリバリとメインプレイヤーを務めていた方も多く、本省でも引き続きメインプレイヤーとして働けると「勘違い」している人も少なくありません。
こういうタイプが、やたらと自分の体験談を披露したり、本省の流儀に従わずに自分のやり方を通そうとしたりして、職場の雰囲気を乱します。
あまりうまい例えでないことは承知で書きますが、もしあなたの職場の会計年度任用職員の方が、担当業務をほっぽり出して延々と「べき論」を語っていたら、どう思いますか?
「黙って手を動かせ」と思いませんか?
意識の高い出向者は、こういう「勘違いくん」に陥りがちです。
そうならないために、「自分はメインプレイヤーではなく脇役」「淡々黙々と作業するのが使命」と肝に免じましょう。
教訓14
自治体勤務の場合、自分が異動するかどうかは、実際に内示されるまでわかりません。
そのため、引継ぎ資料は内示された後、つまり3月下旬に慌てて仕上げる羽目に陥ります。
一方、出向者が本省で働くのは、せいぜい2年です。
(割愛の場合は最長4年間居られるらしいですが、多分レアケースです)
言い方を変えると、次の異動日が最初から決まっており、引継ぎ書の作成締切日が最初から決まっているわけです。
いずれ作らなければいけないわけですから、引継ぎ書の作成はなるべく早くから着手することを強く勧めます。
ギリギリになってから作業しようとすると、往々にしてうまくいきません。
本省の場合、1月から3月にかけては通常国会対応があります。
質問が当たらなければ普段通り仕事できますが、もし大量に被弾すれば、国会対応だけで土日含めて潰れます。引継ぎ書を作っている暇なんて全然ありません。
現に、私の前々々々任者あたりの時代に、国会対応で忙殺されたせいで引継ぎ資料が作れなかったという事件があり、後任者が自らの引継ぎ書の中で愚痴っていました。
他にも、年度途中でダウンして、引継ぎ書を作る前に休職するかもしれませんし、ダウンしないまでも満身創痍で仕事が手につかなくなるかもしれません。
後任に仕事を引継ぐことも含めて、出向者の役目です。
時間を見つけて少しずつ進めてください。
教訓13
本省の仕事は闇が深いです。
出向者が担当しているようなルーチンワークであっても、過去の経緯を調べていったり、細部を探っていったりすると、必ず「問題の種」が見つかります。
たかが1年しか関わっていない出向者ですら発見できるのですから、歴戦の強者である政府付けマスコミや国会議員も、本気を出せばあっけなく「闇」に気づいてしまいます。
つまり、どんな担当業務であっても、常に炎上するリスクを抱えているわけです。
炎上案件を経験したことのある方なら分かると思いますが、元から問題意識があった案件と、役所側も気づいておらず突然燃え始めた案件では、対応の難易度が段違いです。
もちろん後者のほうがずっと大変です。
出向者は長くて2年間しか在籍しない立場であり、炎上しそうな「問題の種」を発見したところで、発覚しないよう「臭いものに蓋」をしていれば逃げ切れます。
とはいえ、後世の担当者が困らないよう、気づいてしまった問題はきちんと引き継ぐべきです。
解決には至らなくとも、問題発生の経緯や現状、周囲への影響などを整理しておくだけでも、必ず役立ちます。
教訓12
本省の課長補佐以上のポジションの方々は、本当に忙しいです。
係長やプロパー事務官に指示を出して仕事を動かしつつ、自ら手足を動かして作業する、「プレイングマネージャー」という言葉が非常にしっくりくる働き方をしています。
国会議員や省内幹部から急に呼び出されて長時間戻ってこなくなるのも日常茶飯事です。
とにかく時間がありません。
見方を変えると、出向者とは流れる時間のスピードが異なるとも言えるでしょう。
補佐以上の方々とコミュニケーションをとる際には、簡潔に、スピーディーに、求められている情報を伝達する必要があります。
出向者がうかうかしているせいで、補佐以上の方々を浪費してしまうのが最悪のケースです。
普段から補佐以上の方々の動きを注視して、自分に少しでも関係があると思われるようだったら、即時対応できるように準備しましょう。
また、話し方にも要注意です。
「えーっと」とか「あ、はい」とか、合いの手は不要です。むしろ邪魔です。
すぐに本題に入ってください。
プロパーの方々がどのような話し方をしているか、普段から耳を澄ませて、もし万一自分が直々にコミュニケーションを取ることになったらどう話せばいいのか、前もって掴んでおきましょう。