田舎地方公務員の省庁出向サバイバル日記

令和3年度(2021年)に某省へ1年間出向した田舎地方公務員の日記です

業務78

深夜残業ばかりが取り沙汰される国会対応業務ですが、実は朝もかなり早くから始業しなければいけません。

国会は、テレビ中継が始まる前から、もろもろの準備がスタートしています。

そのため、職員はだいたい8:30までには出勤しなければいけません。

本省の定時はだいたい9時30分なので、1時間早い出勤を強いられるわけです。

 

かつ、質問が当たっている日の場合は、答弁者(大臣など)から早朝に指示が飛んでくることも少なくありません。

  • こういう言い回しふうに読み替えても差し支えないか?
  • 実態がよくわからないので参考資料を追加できないか?
  • 野党から追及されそうだから想定問を追加できないか

私が見聞きしたのは、このあたりの指示です。

 

こういった指示が当日朝にいきなり飛んでくるわけです。

しかも対応期限は国会入り前、つまり遅くとも8:30までには仕上げなければいけません。

もちろん国会案件なので局内幹部に確認してもらう必要もあり、担当が作業できる時間はごくわずかしかありません。

 

こういった事情があるために、質問が当たっているときは、帰宅せず職場に泊まる人も多いです。

 

業務77

省庁間や部局間での答弁の押し付け合い(割り揉め)も、たびたび発生します。

この点も自治体と同じです。

自発的に答弁を書きたがる部局は存在しません。なるべく少ない方がいいに決まっています。

 

自治体であれば、質問通告から本番まで時間に余裕があるので、じっくりと揉めることができます。

ひどい時には丸一日かかったりもします。

 

一方、本省では、たいてい質問日直前まで通告がなされないので、割り揉めも短期決戦になります。

 

割り揉め対応は、もちろん出向者の仕事ではありません。

主に総合職採用のプロパー職員どうしが戦います。

日本最高峰の理詰め対決であり、周囲の職員は固唾を飲んで見守ります。

 

とはいえ勝敗を分つのは、ロジックの強固さや弁論の上手さではなく、どうやら職員個々人のキャラクターのようです。

押しの強い人が勝ち、相対的に気弱な人が負けてしまいがちです。

業務76

各課で作成する答弁資料は、自治体と同じく、答弁本体と参考資料のセットです。

問の内容次第では、1問につき10ページを超えることもざらにあります。

 

とんでもない量の答弁資料作成を可能にしているのは、参考資料のモジュール化と過去答弁のデータベース化という工夫のおかげです。

 

制度概要のような参考資料によく使われる内容は、あらかじめ網羅的にビジュアル資料を作成しておき、それらをパーツとして組み合わせることで、答弁の参考資料を素早く組み立てています。

これが「参考資料のモジュール化」です。

 

加えて、過去の類似答弁の資料をすぐに参照できるよう、フォルダ名にキーワードを盛り込むなどの工夫を凝らし、すぐに必要な資料を検索できるように整備してあります。

これが「過去答弁のデータベース化」です。

 

これらの工夫は、自治体でも十分実践可能です。

私も取り入れていきたいと思っています。

業務75

よく「野党の質問通告が遅いから官僚の残業が増えている」という指摘がなされていますが、実際のところ通告が遅いのは野党議員だけではありません。

野党でも早い議員はいますし、与党でも遅い人はいます。

 

レクで半日以上も職員を拘束しておいて、さんざん説明させた挙句、「夜に質問を考えるから事前通告できない」なんておっしゃる方もいます。

悪意があるのか、純粋に熱心なのか、私にはわかりません。

 

無駄な残業の原因は、事前通告の遅さよりも、むしろ事前通告の多さだと思います。

議員1人あたりの質疑時間は決まっており、実際に質問できる問の数は限られます。

しかし実際のところ、事前通告では、絶対に問いきれないような大量の問を送りつけてくる議員のなんと多いことか。

 

本省職員の残業代が支払われていなかった時代は、このやり方でも実質コストが増えないので問題は無かったのかもしれませんが、今はきちんと残業代が支給されます。

無駄な答弁作成を強いた分だけ、職員の残業代というコストが増えるのです。

もっと問題視されて然るべきだと思います。

業務74

国会質疑では議員あたりの持ち時間が決まっており、事前通告された問が全て実際に問われるとは限りません。

私の体感では、通告した分のうち、実際に問われるのは7割くらいだと思います。

 

「通告したのに問われない問の割合」も、自治体議会と国会の大きな違いだと思います。

 

省庁側からすると、作成した答弁が「お蔵入り」になるケースが頻発している、と言えます。

プロパーの方々は、こういうケースを「流れた」と呼んでいます。

 

私の場合、「流れ」はありがたいものです。

ひょっとしたらこの答弁のせいで炎上騒ぎが発生するかもしれないわけで、そのリスクが消滅したことをまず喜びたいですし、何よりテープ起こしのような事後作業がなくなるからです。

 

一方、プロパー職員の方々は、「流れ」に対して心底残念そうにしています。

「ちゃんと準備したんだから答弁させろ」と言うのです。

根本的に意識が違います。

 

業務73

国会対応の全般的な流れは、自治体の議会対応と大差ありません。

登壇日が近くなると議員からレク要求があり、登壇前日までに質問取り(問取り)が行われたり通告があったりして問が確定、そして前日のうちに答弁をセットします。

 

ただし、分量とスピード感が自治体とは全然違います。

本省のほうが圧倒的に量が多く、量が多いゆえに各課の答弁作成締切も早く、短時間での答弁作成を求められます。

 

国土交通省の統計問題と国会提出資料ミス問題のせいで、真っ当な質疑が少ないと言われる今国会であっても、一つの係で1日10問対応するくらいは日常茶飯事です。

例年であれば1係あたり30問を超えるのが普通です。

 

答弁作成は手分けして作業できますが、答弁のチェックは管理職が全部一人でやらなくてはいけません。

特に大臣答弁や総理答弁の場合、大量の答弁資料が官房に集まってくるわけで、どういう体制でチェックしているのか気になるところです。

業務72

私の担当業務は、1月半ばの幹部報告をもって終了します。

ここから先は、主に他の職員のお手伝い、主に国会関係の雑用が私の仕事です。

 

今年の通常国会は初っ端から大荒れでした。

国土交通省の建設受注統計の書き換えと、各省の国会提出資料のミスという、省庁側の落ち度が発覚していたからです。

野党を中心に、政策や法案の中身ではなく、こういったミスに関してジクジクと攻撃するだけの質疑が相次ぎました。

 

これらの問題に議員の関心が向いたため、真っ当な質問が激減しており、私の課も例年より被弾せずに済んでいるのですが、担当レベルではむしろ例年よりも作業が増えています。

これ以上、省庁側のミスで国会を騒がせないよう、国会提出資料のチェックが厳格化されたからです。

 

どんな細かい資料であれ、少なくとも課内でトリプルチェックを経たのち、あえて中身を知らない別の課の職員にチェックしてもらい、「素朴な疑問」をもらって修正をはかる……というプロセスが半ばルール化されたため、例年の資料リバイスであっても作成に半日弱かかる有様です。